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マンハッタンの戦慄

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ということで「始末屋ジャック応援月間」、やはり読まなきゃ始まらないということでシリーズ第一作目から読み返すことにした。最初はもちろん映画化も進行中の「マンハッタンの戦慄」”The Tomb”、始末屋ジャック初登場の巻。実際書き始めたときにはこの話がアドヴァーサリ・サークルに連なると考えてはいなかったんじゃないかなと思うんだけど、基本的に「ザ・キープ」でもクトゥルー神話を下敷きにしているということで繋ぎやすい部分ではある。

始末屋ジャックはいろいろな「裏の仕事」を始末する男。それは人殺しや強盗といった悪の仕事ではなく、ある種の「正義」の行使だ。
ある日彼の元に舞い込んだのは、祖母のネックレスを奪った男を見つけ出して取り戻して欲しいというインド人 クサムの依頼と、行方不明になった叔母グレイスを捜して欲しいというかつての恋人ジーアからの依頼だった。首尾良くネックレスを取り返したジャックの前に現れたのはクサムの妹コラバティ。二人がアパートにいる間にやってきた闇の中で蠢くモノはこの世のものではない「黄色い眼」を輝かせていた……。

この作品の魅力はまずなんといってもジャック自身のキャラクターだ。偏執狂的であり、子供のようでもあり、それでも自由の名の下にアメリカに対しても従うことを良しとしない。自らの中にある「正義」の基準で生きている男。ハードボイルドのように見えるが、家族を愛し、自分の周りにいる者に対しては責任を持って守る。それを自らの責任としている。さらに彼自身の中にある、悪に対する「怒り」。その怒りこそが、ジャックを始末屋稼業に駆り立てるものであり、社会のしくみの中ではどうしようもない悪ー日本ではよくある話とも言えそうだーを懲らしめるために、ジャックは様々な手段を使う。 その「始末」の内容もいつも楽しみなところだ。
そしてもうひとつは彼の周りにいる脇役たちの存在。美しいジーア、愛しいヴィッキー、ペシミストのエイブ、口うるさい父。その誰もがキャラクターとして活き活きとしており、ジャック自身が彼らとの関わりの中でさらに輝いて見える。今回はそこに謎のインド人クサムとコラバティが加わり(依頼人も常に個性が立っているのもシリーズの特徴だ)、物語をもり立ててくれる。

そしてクライマックスは怪物たちとの闘いへ……。テンポ良く語られるお話は最後には熱を帯びて、正に手に汗握る展開へと進んでいく。後半は特に頭の中に映像が見えてくるような、そして次のページに進むことさえもどかしい気持ちにさせられる。そこはウィルスンのストーリーテリングの巧さだろうか。

始末屋ジャックシリーズは1984年刊行のこのお話のあと、1992年の「ナイトワールド」を挟んで1998年に復活することになる。ウィルスン曰く、ジャックは非常に人気のあるキャラクターで作者自身もお気に入り。だからこそ大事にしたかったといい、それは成功していると言えるだろう。

何度読んでも面白い。そして続きがあるならもっともっと!と思わせる。そんなシリーズのスタートをぜひお楽しみあれ。

Written by ei

9月 1st, 2009 at 4:54 pm

Posted in Books

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